「ボルカルス」
作者:上杉真人
メーカー:アークライト
プレイ人数:4人
対象年齢:10才以上
プレイ時間:約60~80分
毎度どうもこんにちは。お久しぶりのライター松風です。
唐突ですが、皆さん怪獣はお好きですか?
地中から、海底から、宇宙から、はたまた異次元からやってきて災害をもたらす怪獣は、その圧倒的な力強さが魅力ですよね。
そんな怪獣が、もし自分の町にやってきたら……なんて想像を男の子なら(もしかしたら女の子でも)したことはあるはず!
というわけで、今回ご紹介するのは怪獣対人間をシミュレートできる『ボルカルス』!
クラウドファンディングのサイトやゲームマーケットなどで気になってた方も多いんじゃないでしょうか。
タイトルにもなっている「ボルカルス」とは、本作のオリジナル怪獣で、全身から溶岩を噴き出して暴れまわり、急速に自己進化を遂げる、正に「歩く災害」です。
このゲームの特徴と言えば、怪獣側と人類側で別れてプレイする対戦型でありながら、人類側は団結してプレイする協力型になっていることでしょう。
いくつかのゾンビもののゲーム等では見たことある形式ですが、これほど怪獣ものというコンセプトにふさわしい形式は他にないと言えるでしょう!
【ゲーム内容】
まずは怪獣側を担当するプレイヤーを決めます。
人数的に最大1対3の構図になるので、ゲームに慣れたプレイヤーが担当するのがルールでも推奨されています。
とはいえ、割とボルカルス側有利なバランスにもなっているようですが。
大きめのフィギュアもあって、非常にカッコいいです。
同様に、人類側も担当する役職を決めておきます。
すなわち『消防総監』『統合幕僚長』『研究総務官』『内閣官房長官』の4つの役職から、自分がやりたいものをチョイスしましょう。
『消防総監』は消防庁のトップ。素早く『溶岩』を鎮火して回れる《消防ヘリ》を動員できます。
『統合幕僚長』は自衛隊のトップ。《大型貫通爆弾》を使った怪獣への直接攻撃を自衛隊に指示できるのはこの人だけです。
『研究総務官』は国土交通省の偉い人。怪獣の生態や被害状況を《研究》して『調査トラック』をたくさん進められ、一定以上調査が進むと様々な行動オプションが開放されていきます。
『内閣官房長官』は内閣府の偉い人。少しテクニカルになりますが《状況継続》というカードでマルチに立ち回ることができます。
それぞれ得意とする分野が違うのですが、人数の関係で1つは余ってしまうので、誰を切るかが悩ましいですね。
アドバイスをするならば、『消防総監』は絶対にいた方がいいです。
いるといないじゃ難易度が格段に変わってしまうんじゃないか、ってレベルの重要人物です。
『マップボード』の上にはランダム配置された『調査タイル』と『予兆タイル』が各エリアに置かれ、タイルに書かれた数の『市民』『要人』『溶岩』のコマを置いていきます。
『市民』とは、そのエリアに取り残された一般人を表していて、彼らをうまく脱出させてあげるのが人類側の使命の一つです。
『要人』も『市民』と扱いは同じなのですが、彼らは助けると、ラウンドごとに使用できる『資金』を増やしてくれます。最優先で救出したくなりますね。
そして厄介なのが『溶岩』です。
これがあると毎ラウンド同じエリアにいる『市民』が減っていく上に、3つ溜まるとパンデミック……ではなく『炎上地域』ができ、溢れ出した『溶岩』が際限なく『被害トラック』に増えてしまいます。
なので、『溶岩』をいかに減らしていくかは、人類側のゲーム展開において非常に重要になってくるのです!
マップ下部には『防衛トラック(人類側)』と『被害トラック(ボルカルス側)』が描かれています。
このゲームの勝敗は、『防衛トラック』か『被害トラック』のどちらかが全て埋まってしまうか、6ラウンドの経過で決定します。
もちろん、トラックの空きマスが少ない(あるいは無い)方の勝利です。
トラックを埋める手段は、双方とも以下の3つずつしかありません。
人類側は「『市民』を救出する」「『溶岩』を鎮火する」「怪獣に攻撃を加えて攻撃タイルを獲得する」
怪獣側は「『市民』を殺害する」「『溶岩』を溢れさせる」「破壊ボーナスを達成してボーナスタイルを獲得する」
『市民(要人含む)』や『溶岩』は取り除く事ができたコマをそのままそれぞれのトラックに置くだけですが、3つ目のタイルの獲得条件だけが少し違っています。
ボヤボヤしてると、意外と早く『市民』は死んでいきますので、人類側にあんまり余裕はない感じですね。
このゲームの1ラウンドは5つのフェイズに別れていて、上から順に解決していきます。
・イベントフェイズ……イベントカードの解決
・計画フェイズ……人類と怪獣双方が、このラウンドで使用したいアクションを選択します。
・実行フェイズ……『計画ボード』に置かれた『アクションカード』を順に解決していきます。
・溶岩フェイズ……マップ上にある『溶岩』の処理を行っていきます。
・拠点フェイズ……マップ上にある『拠点』から市民を逃したり、『調査タイル』を獲得したりします。
ゲームの流れとしてはそんなに複雑ではありませんね。
まずイベントフェイズでは、『マップボード』の右端に並べた『イベントカード』の中から現ラウンドのカードを選び、その上の『調査タイル』をマップ上の『予兆タイル』と入れ替えます。
そしてカードをオープンし、カードの効果を適用します。
『通常イベントカード』ではタイルを入れ替えた『予兆マス』に『溶岩』が2つ増えるだけですが、選択ルールの『上級イベントカード』ではもう少し様々な災害が起こるようになっています。
次に計画フェイズでは、まず人類側から手持ちの『アクションカード』の中で、このラウンドで使いたいカードを制限時間内に選ばなければいけません。
これはプレイヤー同士で相談OKになっています。
カードが決まったら、「同じ列」に裏向きのまま配置しなければいけません。
『計画ボード』を見てもらえばわかりますが、次の実行フェイズでのアクション解決の流れは決まっています。
つまり人類側一人の行動に対して、間に必ず怪獣側のアクションが挟まるようになっているわけですね。
なので、人類側は予算のやりくりをしつつ、怪獣の動きを予想して、誰がどの順で動くか協議しないといけないのです!
いくらでも長考できてしまうポイントなので、時間制限があるというのもこのゲームの緊迫感を演出するルールになっていると言えるでしょう。
怪獣は人間の都合を待ってくれませんからね!
逆に怪獣側のプレイヤーも、どうすれば場を荒らせるか、人類側の思惑を潰せるかを念頭にアクションを選ばなければいけません。
そんな時、指針になるのが3枚の『破壊ボーナスタイル』です。
これはゲーム開始時にもらえるタイルで、いわば勝利目標が書かれています。
その内容が達成できたらタイルをオープンし、『被害トラック』を一気に塞ぐ事ができるので、これを目標にプレイすればいいでしょう。
そして実行フェイズです。
『計画ボード』の流れに従って、双方の『アクションカード』を解決していきます。
人類側が使用できるアクションには『予算ボード』上にある『資金』を消費するものがあり、『使用済資金』は同じくアクションで『予算申請トラック』を回さないと回復しないのです!
ここは『内閣官房長官』の腕の見せ所でしょう。
それが終わると溶岩フェイズに入ります。
マップの各マスにある『溶岩』1つにつき、『市民』が一人犠牲になります。
死亡した『市民』は怪獣側の『被害トラック』に置かれてしまうので、実行フェイズできちんと『市民』を誘導して逃してあげましょう。
誰もいなければセーフ……と言いたいところですが、『溶岩』が3つ以上あるマスは『炎上地域』になってしまいます。
『炎上地域』1つにつき、『溶岩』1個が『被害トラック』に置かれてしまいますので、注意!
イベントフェイズの追加『溶岩』にしろ、『炎上地域』から増える『溶岩』にしろ、これらは『怪獣ボード』の『溶岩プール』から消費されます。
『溶岩プール』1つが空になると、怪獣側は『進化タイル』を獲得できます。
これによって、怪獣のアクションにさらなる追加効果が開放されていくのです。
つまり、『溶岩』が増える=怪獣の進化が早まる、ということなのです!
増えた『溶岩』は早急に鎮火しないとえらいことになるのがお分かりいただけると思います。
やっぱり『消防総監』さん、大事ですね!
最後の拠点フェイズでは、マップ上の『拠点』が置かれたマスにある『市民』を安全地域に避難させる事ができます。
無事に避難できた『市民』は『防衛トラック』に置かれますので、人類側の勝利に近づくというわけですね。
それから、『拠点』のあるマスの近隣から『調査タイル』を1つ獲得できます。
『調査タイル』には1~3までの数字が書かれていて、その数だけ『調査トラック』が進められるのですが、『研究総務官』なら《研究》アクションで必ず3進められるのが強みです!
『調査トラック』を進めると5、15、25の段階でそれぞれ『アクションカード』に書かれた追加効果が開放されていきます。
さらに10で新たな『拠点設営』ができるようになり、20で『特殊冷凍弾』を使用できるようになります。
うまく怪獣に対して使えれば、大きなダメージを与えられるでしょう!
これらのフェイズを繰り返し、防衛と被害のどちらかのトラックが埋まるか、6ラウンド経過でゲームは終了します。
【まとめ】
複雑になりがちな要素をよくここまでまとめたな、というのがまず第一印象でした。
使用するボード類が多いので、一見してヘビーゲームと思われがちですが、プレイ感覚はそこまで重くありません。
怪獣側も人類側も、決められた手数でマップ上にやれることを拡げていく感じですので、変則的なワーカープレイスメントと言ってもいいかもしれません。
やっぱりいちばん悩ましいのは計画フェイズでしょう。
毎ラウンド変わる手札に、今欲しいアクションがあるとは限りません。
この「次善策を取るしかない」状況そのものが、追い込まれる人類側のジレンマになっていきます。
対して、怪獣側もただ暴れていればいいわけではなく、人間に対策を取られないように常に先を見て被害を大きくしていく必要があります。
これらの兼ね合いでゲームは進んでいくので、途中でダレるという事が起こりにくいのが素晴らしいデザインだと思います。
避難誘導して集めた市民が地中を高速移動してきた怪獣にまとめて焼き殺されたり、まだ安全と思っていた地域に突然溶岩が集まって大炎上したり……。
思わず「あるある!」と言いたくなるような怪獣映画のシチュエーションを追体験できる、という意味で成功したゲームと言えるでしょう。
とにかくこのジャンルが好き! とか、ちょっとでも興味があるようでしたら、是非プレイしてみてください。
人類側はお互いを役職で呼びあうと雰囲気も満点! ……ですが、ロールプレイに時間を取られすぎないようにご注意を。
なんたって、怪獣はすぐそこまで迫っているんですから!
最後に、このゲームは「Kaiju on the Earth(カイジュウ・オン・ジ・アース)」という怪獣をテーマにしたボードゲームシリーズの第一弾だそうで、これからの展開にも期待したいところです。
次はどんな怪獣との戦いが待ち受けているのか、今から楽しみですね!
といったところで、今回のゲームはいかがだったでしょうか?
それではまた次の機会にお会いしましょう。
ライター紹介
松風志郎(まつかぜ しろう)
ゲーム制作チーム「Team・Birth-tale」所属。
ゲームシナリオライターだけでなくゲームのシステムデザインなども手がける。
アナログゲームとの関わりは古く、幅広いジャンルをたしなむ。
世界観にとっぷりと入り込めるゲームが好き。
代表作
歴史シミュレーションゲーム「三極姫」シリーズ
大戦シミュレーションゲーム「萌え萌え2次大戦(略)」シリーズ
大戦シミュレーションゲーム「出撃!乙女達の戦場」シリーズ
恋愛アドベンチャーゲーム「はち恋」
その他多数。